走れ無職




無職は激怒した。

「月額¥10で、世界中の汚らわしい動画が見放題」
というサービスが、来月から¥20に値上げするのである。
経営者は2倍の値上げをして暴利を貪ろう魂胆に違いない。

無職は動画鑑賞だけが唯一の生きがいである。
それが2倍の値上げをされるだなんて!


憤激した無職は、ソーシャルメディアにおいて経営者を襲撃することを提案した。
すると、大勢の人々(独身男性のみ)が熱狂を持って呼応したのであった。

この動画サイトの経営者は、日本最大の指定暴力団である山田組の有力幹部である。

組の事務所を襲撃して
「おい、値上げを撤回しないと青汁を飲ませるぞ!」
と脅迫してやろうと考えたのだ。

だがしかし。
無職は決起当日に寝坊をした。
「しまった!発起人でありながら自分が遅刻してしまうとは情けない。」

寝坊をしたのには心当たりがあった。
昨夜、シミュレーションゲームをしていたのだ。
「ハゲ・デブ・チビでも美少女と恋愛できるゲーム」
というゲームをやりこんでいたのである。

タイトルの通り、美少女キャラクターが、ゲーム・プレイヤーに恋をするゲームである。
日頃、全くモテない無職は(*モテない原因は職に就いていないからなのだが...)大喜びでゲームに熱中。
モテまくる時間を満喫していたのである。
ふふふふふ...

あははははは...
うひょひょひょひょひょ...
えへへへへへ.....
うほほほほほ...
げほっ...

げほっ、おえっ、うえっ...
(無職、笑いすぎてむせる。)


いや、夜更かしした理由なんぞ、どうでもいい。
今は現地に行くことだ。

無職にはお金がない。
電車にも車にも乗れない。
ならば走るしかない。
走れ!無職。

が、日ごろの運動不足により、ろくに走れない。
しかたがない、値上げを甘んじて受けることにして、襲撃は中止にしよう。

そう考えた無職はソーシャルメディアのアカウントを開いた。
すると、多くの投稿があった。
「しまった!彼らは既に現地にいるのだろうか?
私が遅れていることを、心配しているのだろうか?」

投稿を読んでみると
「今日は欠席するわ」
「やっぱり、やめておく」
「山田組怖い」
という欠席のメッセージだけであった。
あの熱狂は何だったのだろうか。

無職は、ひどく落胆した。