レビュー:直木賞受賞作『香港』


邱 永漢(きゅう えいかん)

作家・経済評論家・実業家。
1924年、台湾に生まれる。
第二次世界大戦後の台湾で独立運動に加わる。その結果、逮捕状が出たため香港に亡命。
香港では日本との貿易業を始めて成功を納める。
1954年、日本に移住。1956年、小説『香港』で外国籍として初めて直木賞を受賞する。
以後、経済評論家や実業家として、日本・香港・台湾などを拠点に活動。
2012年没。


この度、邱永漢の直木賞受賞作『香港』を読みました。
著者本人の公式ホームページに全文が掲載されています。これを利用して、一日で一気に読みました。


作品の舞台は、戦後間もない香港のスラム。
主人公は台湾人の頼 春木(らい しゅんぼく)。
他の登場人物も、李 明徴(り めいちょう)や周 大鵬(しゅう たいほう)。他には広東女や上海女。日本人は一人も出てこない。
全員が生きるために必死に金を稼ごうとしている。露店商、単純な肉体労働、売春・・・。
絶望的な貧困の中、随所に金持ちの西洋人という別世界が書かれ、格差を痛感させられる。
圧倒的な負け組という点では、主人公と読者である私は共通するのだが、明らかに異なる点がある。
自分の力で生き抜こうとする姿だ。そのために、詐欺にも手を出している。
道徳的には問題だが、そこはフィクションの世界。一つのスパイスとして楽しみたい。

絶望的な世界を必死に生きる様は、ぐいぐいと引きつけられます。数日で読破しようと思っていたのですが、一気に読んでしまいました。
なかなかの読み応えのある作品でした。